壁の落書き

好きなものを好きかってに。

渡辺美里「いつかきっと」の詩を読む。

渡辺美里 bigwave

 

美里の冬ソング。あらためて調べてみるとドラマの主題歌だったようで、わりと90年前後はドラマの主題歌タイアップも多いんですよね。

 

眠れぬ夜 重ねながら
時代という名のゆりかごに
ゆられてぼくらは大人になるのかな


君とぼくの二人の距離

追いかけても 追いつけない
長距離走者の淋しさに 似ている


冬の陽差し 影おとした
交差点でふりむく君に心の中で
何度もすきだとさけんでた

雪どけには 木立の中
きらきらイオンがあふれて
汚れた宇宙もやがて息づいてく

悲しいよね 泣きたいよね
すぐに声が聞きたくなる
留守番電話にメッセージ残すよ

君の顔を忘れること
海辺でなくしたピアスを
みつけることより難しいのはなぜ

あの微笑 あの苛立ち あの輝き
君のぬくもりを抱きしめたら
風は春のにおいがしている

いつかきっと自分らしく
この街で戦いながら
傷つき それでも君と歩けるなら

悲しいことも 力にかえて
自分の歩幅で走りだすよ

雪どけには 木立の中
きらきらイオンがあふれて
汚れた宇宙もやがて息づいてく

眠れぬ夜 重ねながら
時代という名のゆりかごに
ゆられてぼくらは大人になるのかな

 

 

いつかきっとの詩は、冒頭と最後が同じです。客観的かつ達観したこの一節から始まるのがとても印象的です。

 

眠れぬ夜 重ねながら
時代という名のゆりかごに
ゆられてぼくらは大人になるのかな

雪どけには 木立の中
きらきらイオンがあふれて
汚れた宇宙もやがて息づいてく

 

きらきらイオン。イオンってなんとなく言葉は知ってるけど意味を知らない文系が、一番わかりやすそうだった解説を見つけました。
ーイオンとは原子が電子を得たり、失ったりして電気を帯びたものー とあります。うんよくわからん。よくわかりませんが、なんとなく雪解けの朝にきらきら光る空気感は伝わりますね。キラキラではなくきらきらなのが透明感があり美里っぽい。曲にのって口ずさむと、より美しく感じる一節だなと感じます。

 

悲しいよね 泣きたいよね
すぐに声が聞きたくなる
留守番電話にメッセージ残すよ

 

留守番電話にメッセージ。こういう感じ。今では難しいですね。とはいえこのような感情は時代が変わっても普遍的なもの。ツールは違えどきっと今の時代でも同じような心情は理解できるのではないでしょうか。

 

いつかきっと自分らしく
この街で戦いながら
傷つき それでも君と歩けるなら

悲しいことも 力にかえて
自分の歩幅で走りだすよ

 

このあたりは美里節という感じで、凛とした力強さを感じる一節です。冬の街ととの距離感がちょっとBELIEVEの歌詞に近い印象を受けます。ただBELIEVEより明るく感じますし、前向きですね。

冬ソングと冒頭で紹介しましたが、実は春ソング、ですね。縮まらないぼくの距離、生きていく上で必要な戦い。季節が変わりゆく描写に、自分の人生を一歩踏み出すために前を向くぼくの心情を重ねた、ちょっと勇気をもらえる一曲だと思います。


本作は80年代の作品より少し落ち着いた、いい意味でちょっと力の抜けた本作(EP版のジャケ写もこれまでのものより自然体)のような気がします。大人の視点、母性を感じさせる描写、少し大きな俯瞰的視点も入っている作品だなと感じました。